国家の品格より

電車のつり革広告にもなっている、藤原正彦著「国家の品格」を読んだ。思ったより読みやすい本で、まぁ休日があれば一日で読めてしまうだろう。

国家の品格 Book 国家の品格

著者:藤原 正彦
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以前、「祖国とは国語」を読んだが、こっちの方がいよいよ本筋であって、著者の主張が詰まっている。前回のブログでも書いた事であるが、数学者というのはとても素敵な職業ですあると改めて。筆者の言うところの、何の役にも立たない学問をやっているという自覚があるからこそ、このような大局観を見れる知恵が培われるわけで、自分の雇う事のできる暇というのは、これからの時代ますます大切な気が強くする。仕事ばかりにだけ時間を費やしていれば変に頭が凝り固まり人間は腐っていくわけで、万遍ない知識の獲得の重要性を再認識せざるおえない。

さて、読書感想文をいつものように、私なりにアレンジしながら書いていこうと思う。この本は結構有名なようで、いろいろな人がやはり感想を残しているのを見る。バカの壁を読んだ時もそうだったが、バカの壁にそもそも気づかない人、人としての品格をもっていない人ほど、こうした激しい論調に対し噛み付くもののようだ。批判的なコメントが若干多いように感じた。中には全否定的なものまである。エリート的な大局観を持つためには、日々に偏った思考を持ちすぎない事がとても大切で、知識の栄養失調、思考の栄養失調にならないためにも、自分が正しいと思うことほど省みる気持ちを養いたいものである。

おそらく著者を批判する人多くは、この著者を偏った思考の持ち主だと思っているのだろうが、それは大間違いであると思う。この人物はそうした偏った思考が危険だという事をおそらく十二分に知っているし、その事の危険性、また自分がそうなる事から回避する術をも知っている。それは文章をよくよく読めば、その知識量の膨大さと興味の幅の広さから伺えるのである。役に立たない事をたくさん知っている人間ほど、やはり大局観への見識にも優れる気がする。テレビに出てくるちょっと気取ったコメンテーター、薄い知識をひけらかすみのもんたなぞに比べたら、その量は計り知れないものであろう。

著者が繰り返し述べる事が、論理との決別である。数学という論理の塊のような学問をやっている人間がこう述べるのであるから、これはよほどの覚悟があっての事であろう。私自身、物理学を長年やっているわけで、この論理の重要性というのを特別に感じているが、それと同時に論理ほど、人を人らしさから遠ざけるものはないなと実感している。社会の決まりごとや、マクロというのは確かに論理によって形成され、秩序化されて動いている。だがしかし、個人個人であったり、ミクロというのは、情緒であったり、奥ゆかしさであったり、懐の広さであったりという曖昧さが、人というぬくもりを作っているわけであって、これは論理という鋭利な刃物によって傷つきやすいという事を別に知らねばならない。

もちろん、論理というものが大切でないわけではない。私のような物理学をやっている人間からすれば、論理性に欠ける世の中は非効率で溢れかえっているように感じられる。とにかく無駄ばかりである。そうしたものを徐々に排斥してきたからこその、現在のような経済発展であったり、自由民主主義の獲得につながってきたのであろうから、著者の言うように「論理」というものをそこまでコケにする必要があるのだろうかと感じる人も多いのだろう。しかしながら、そうした反例は既に著者も承知済みである。承知済みで、今大切なものが、文化的遺伝子が傷つけられている事に大いなる危機感を抱いているのである。そして、アメリカ的な論理重視の主張が政界財界で猛威を振るい、それを世論がなんとなしに押しているのだから大問題なのである。

先日、屋久島に行って縄文杉を見てきた私だが、この島丸ごとの自然というものを見てきて、畏怖すべき自然への感性が少しばかりだが磨かれた気がした。自然の空気、色、音といったものが、ただただ、我々に情緒と無垢な知恵を授けてくれているように感じられた。これらの木々が人間のエゴによって切り崩されたのならば、数千年の歴史は一瞬にして途切れてしまったのだろうと感じると恐怖でもある。人間が脈々と受け継いだ遺伝子は、体内の細胞のみならず、文化という形、国語という形、美意識という形で残っている。それを我々がないがしろにすれば、もう一度苗から植えなおさなければならないという過ちを犯してしまう。人間が思考するために必要不可欠である国語や情緒の遺伝子を傷つけるな、そういう事である。

“日本人は優秀だ”なんていう議論をする事がしばしある。確かに、学問の世界で生きていても、世界のどの国の人間よりも、日本人は素晴らしいと痛感する事が多くある。食文化だって、どう考えても世界一素晴らしい。日本の技術力なんていうのも本当に素晴らしい。では、それは何故か?となると、そこに思考する島を与えずに、ただ民族的優秀さだけを問いたりする人がいるし、多くの日本人がその経済的恩恵を受けているにも関わらずそれを考えずに過ごしている。または、自分たちの優秀さを知らないでいる。私はこの事をよく考える。そして一つの最も重要な理由にたどり着く。

それは一度も侵略、占領を受けた事がない、そして単一民族国家を貫いたという歴史である。以前、とある掲示板でこのような発言をしたならば、「日本は単一民族なんかではありません。そういうデリケートな発言には気をつけた方がいいですよ」といった、いかにも左的指摘というか、ご高説を受けた。私自身、注意力が足りなかったといえばそうではあるのだが、アイヌ人や琉球民族をないがしろにしてこう発言したわけでは全くなく、現日本民族の素晴らしさを説いているという事に、どうやら本気で気づかないらしいのである。世界の理不尽な悲惨さを知らないから、そして自分たちがいかに幸せな歴史の遺伝子を持っている事に気づかないから、このような無知なる知を人にさらけ出すのである。

こうした人々の言論は常に偏っているものである。自分の知識に酔いしれている感があり、不幸な事にそうした事に対して正義を宿したりするのである。しかし、残念ながら世界の紛争の多くが、こうした無知なる正義感から起こっているのだ。世界で見られるような民族対立や、土地を常に追いやられている民族、または宗教戦争からは、この日本は歴史上無縁である事の奇跡によくよく感謝しなければならない。その幸せと地政学的な運がいかに現代を生きる我々にとって素晴らしい事かというのを、与り知らねばならないと私は思うのである。このようなにわか知識人が、本当に今の日本をダメにしているに違いないとつくづく思う。そして、マスメディアにこの手の人物が実に多い。いらぬ正義感を持っているのである。正義という言葉は、個人のアイデンティティーにはなっても、集団の行動学にしてはならないというものを、彼らはもう少し理解するべきである。

侵略を受けなかったがために、文化と国語が生き残ったのであるし、室町時代や江戸時代という、煌びやかな平和が存在できたわけである。日本史から室町時代と江戸時代が抜けていたらどうであろうか?その頃に外国の侵略を受けていたらどうであろうか?これは大変な事である。今ある食文化も、情緒ある言葉の数々も、みな消えうせてしまうであろう。今の食文化のほとんどは室町時代が発祥であるし、江戸の町民文化が質の高い現代日本人を作り上げている。そうでなければ、黒船が来航してきた時に他のアジア諸国同様、植民地化していたやもしれない。ましてや世界の全てが目を疑った、烈火のごとき明治維新の文明開化や、当時世界図一の陸軍であったロシアを打ち破る事なぞどだいできなかった事であろう。アジア人が白人より能力が無いわけでもないし、日本人がアジアの中で特別な能力を持っているわけでもない。歴史と文化と地勢が違ったのだと私は考える。

日露戦争に負けていれば、いくらかの土地を日本は失い、ロシアの文化を受け入れる事が必死であったはずである。第二次大戦で日本が朝鮮半島のように分割されたならばどうであったろうか?GHQ統治による日本の文化破壊がされた事による今日の影響を考えれば、目も当てられない事態が予測できるであろう。このように、文化を守り、思想を一元的なものへと傾倒させなかった事が、我々日本人を稀有たらしめているものだと思うのである。そこまでの理解に及べば、この著者の話す事は生水を飲むかのように易しい事である。あらゆる知識に長けているために、このような大局論を記述できるわけであり、随所に知識の奥深さや、知識と思考の品格が感じ取れる。生涯に渡って、知識に対して謙虚に生きなければならないものだと私はつくづく思う。そして文化を失いかけている今の現代人に果たして何が必要なのだろうかと、またも路頭に迷うような頭痛を感じてしまう。その前に自分自身がそもそもの品格を身につける必要があるのだろうが…。

最後に一つ。著者も述べていたが、世界を救うことができる唯一の民族は日本人であると私は密かに考えている。これは大げさな事ではなく、今の世界の紛争を心底理解できない日本人にこそ、この素質はあるのだと思うわけである。過去に、思想の押し付けを受けず、独自文化をこれほどまで大切にしてきた国家こそ、世界の中庸にたち、リーダーシップを取る事ができる、他国の文化を大切にできるに違いないと思うのだ。そのためにも、今こそ自分の品格を求め、日本という祖国愛からなる貢献と、すなわち世界への貢献に身を尽くしたい想いに駆られるわけである。中身ある教養を身に付ける事は怠れないなと、この本を読みながら改めて感じた次第である。

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